私はかねてより、首都直下型地震などの発生時にその場にとどまる、「一斉帰宅抑制」の周知や運用の難しさについてとりあげてきました。
加えて、令和元年の台風19号で、地元世田谷区の多摩川沿いのエリアが浸水した際に、避難のタイミングのみならず、避難所の開設状況(空きがあるか、新たにどこに開設されたかなど)について、(当時は、一定時間ごとに区役所のHPにおいて、テキストのリストで情報提供されていましたが)リアルタイムの情報が欲しいとの声をいただいたこと、加えて、やはり地図上で表示されたほうが圧倒的にわかりやすく、民間の地図アプリを通じた情報提供の重要性を継続して訴えてきました。
帰宅困難者対策オペレーションシステムの構築
都は、今年度より「帰宅困難者対策オペレーションシステム」の実証実験に着手しているが、昨年の事務事業質疑では、集めた情報を提供する際には、東京防災アプリや都HP等、独自の媒体による情報提供に加え、都民が日常的に使う地図アプリで情報が入手できるよう、APIを介した情報提供が重要であると訴え、APIを介した情報連携等も含めて検討する、との答弁を得ている。
Q1 都が令和4年度に予算化した帰宅困難者対策オペレーションシステムの構築に関する今年度の取組は
A1 都では、帰宅困難者対策オペレーションシステムの構築にあたり、今年度、道路上の帰宅困難者の滞留状況をマップ上に可視化するシステムの技術実証等を実施。来年度からは、この仕組みを実際の災害や訓練で活用。さらに、一時滞在施設の混雑状況やSNSの情報を活用した火災・建物倒壊などの災害関連情報を同一のマップ上に一元的に表示するとともに、APIを介した都民への情報発信機能の追加を検討するなど、順次システムの機能を強化。こうしたデジタル技術の活用により、帰宅困難者のより一層の安全確保を図っていく
都の計画(シン・トセイ2)で表明したように、「アジャイル」に、そして「API連携」に取り組むという答弁。
一方、DXで大切なのは、システムを構築して終わりではなく、本当に使えるシステムにしていくことである。とりわけ、災害発生時に不特定多数の帰宅困難者を受け入れる一時滞在施設の様な現場でのデジタルトランスフォーメーションは、ユーザー視点、すなわち、業務の流れを分析し、課題を把握、システム開発の方向性を検討するといった、丁寧な手順をふむことがなお一層重要である。質疑を通じて、都が令和4年度のシステム構築に先立ち、以下のプロセスを踏んでいることを確認した。
①現在の一時滞在施設の業務に関する課題を把握するため、区市町村や施設管理者に対するヒアリング等による調査を実施、一時滞在施設の業務において帰宅困難者の受入管理や滞在者数の集約などに多くの時間を要すること、行政側において多数の施設の開設状況や混雑状況等を迅速かつ的確に把握することが難しいといった運営上の課題を把握
②これらの課題を解決にむけ、令和3年度に、一時滞在施設におけるQRコード等を活用したスマートフォンによるスムーズな受付や、滞在者等に関する情報のクラウド化によるリアルタイムな共有などについて検討、実証実験を実施
テレワークの普及の影響
現在、都が確保している一時滞在施設は、1,155か所、44万3,000人分となっている。首都直下地震等の際に発生が想定される帰宅困難者が517万人、そのうち「行き場のない帰宅困難者」が92万人と試算されており、民間事業者の協力を得て、一時滞在施設をさらに増やす必要がある。そのためには、災害発生時の具体的な運営方法など、実際に帰宅困難者を受け入れる民間事業者の懸念を払しょくすることが重要である。都はこれまで、備蓄品購入費用に対する補助や、アドバイザーの派遣、都立の一時滞在施設向けのマニュアルを参考として提供するなど、民間事業者のサポートを行ってきたが、大学研究者による事業提案制度による提案(東京医科歯科大学)を受け、令和4年度から新たに、様々な運営形態の民間一時滞在施設における運営の課題等を調査したうえで、新たに民間の一時滞在施設向けのマニュアル作成を進めるとしている。
これに対し、コロナ禍によってテレワークが定着しつつある現状を踏まえ、オフィスの稼働率や鉄道の乗車率などのデータに基づき、帰宅困難者、ひいては一時滞在施設の確保の目標値を見直す必要性について指摘した。加えて、地元世田谷区において、テレワークをするようになった商社マンが消防団に入った事例を踏まえ、以下の質疑を行った。
Q2 テレワーク時の地元の防災活動への貢献について、あらゆる手段を活用し、都から呼び掛けを行っていくべき
A2 働く世代が、自分たちが住む地域の防災活動に参加することは、共助の担い手として、地域の防災力の向上に大きく寄与。このため都は、町会等を対象とした防災の各種講座において、災害発生時にテレワークで在宅している働く世代の方々の協力を得られるよう、日常から顔の見える関係の構築を呼びかけ。加えて、企業等に対しても、従業員等が地元の防災活動に参加することの意義などについて、都が新たに開始した「事業所防災リーダー」による繋がりを活用し、発信。
町会の加入率が低迷し、なかでも現役世代の加入が進まないなか、「事業所防災リーダー」を通じた働きかけは期待できると考える。
気候変動を踏まえた大規模風水害対策の防災充実・強化
都は令和4年度に、気候変動を踏まえた大規模風水害対策の充実強化として、都民の適切な避難行動につながる情報発信のあり方について検討する。少し調べただけでも、全国の自治体でこれまでに多くの検討事例がある中で、都が改めて同様の検討を行う検討する意味として、区部東部の低地帯や、多摩西部の山間部、島しょ地域など、東京の地域特性に応じた情報発信のあり方を検討するとのことだが、加えて、高齢者の単身世帯の増加なども考慮するべきと考える。
昨年夏の九州地方の豪雨で、高齢者を助けに行った民生委員が亡くなった事例が印象に残っている。
これを受けて厚生労働省は、避難が呼びかけられている地域では、民生委員は地域の見守りなどの活動はせず、自治体に対応を任せるよう全国に通知したとのこと。責任感の高い方だからこそ、民生委員を引き受けているわけで、関係性ができていればいるほど、難しい判断を迫られるであろうことが予想される。都内においても、民生委員の高齢化は進んでいる。このような事例、状況を踏まえると、災害が差し迫る危険な状況においては、危険な場所にいかないことを都民に周知することも、重要である。
Q3 自らの命を守るための行動を最優先とするような情報発信も検討範囲に含めるべき
A3 令和元年の大規模な台風第19号では、避難所に避難した人の割合は従前よりも上昇したが、それでも数パーセントにとどまっており、都民の避難意識を一層高める方策を検討することが急務。今後、命を守る行動を促す方策も含め、水害リスクのより効果的な発信・伝達等について、放送事業者など専門家の意見も踏まえ、具体的な対策をとりまとめる。
避難が遅れることが被害を拡大することから、要支援者、支援者の双方が、避難指示の発令段階、すなわちレベル4までに、危険な場所から全員が避難できている必要がある。医療的ケア時の保護者、団体からも、災害時に地域の支援が必要との声を頂いている。そのためにも、情報伝達は重要である。
Q4 大規模風水害時等に住民に必要とする情報を確実に伝達するためには、最新の情報通信技術などを活用することが重要である。今後の検討にあたっては、ICTの専門家の意見を十分聞くべき
A4 都は、来年度、国や区市町村等と連携し、災害時等の情報発信手段の充実・強化のあり方等について検討する場を新たに設置、この中で、情報通信に関わる関係省庁のほか、情報通信事業者などの専門家等からも意見を聴取することとしており、今後の技術革新も見据えた、より効果的な対応策を検討
分野は違うが、八王子市のソーシャルインパクトボンドの事例で、がん検診の受診率を高めるために、ただ一斉に呼びかけるのではなく、健康診断結果を踏まえた発信が有効であった、という結果もある。
政策企画局の、戦略広報部の発足に関する質疑でも、一人ひとりに応じた情報発信、レコメンドの効果について述べたところ。DXならではの取り組みを期待する。
デジタルツインを活用した水害シミュレーション
デジタルサービス局の昨年の事務事業質疑において、好事例を早く生み出すという観点から、デジタルツインを、防災に活かすという取り組みを評価した。現在の、標高などの静的データに基づいたハザードマップに比べて、浸水エリアの拡がりや浸水の深さなど、時間の経過による動的な変化を立体的に再現できるようになり、都の災害対策や訓練の精度を高めるとともに、都民の皆様にも避難開始のタイミングの重要性など、よりリアリティを持ってとらえていただき、備えをしていただくことが期待できる。知見の蓄積や精度の向上のさ中にある技術ではあるが、こうした具体的なユースケースで都民や都職員がその価値を実感することが、DXやデータ利活用の推進に寄与するものと考える。本取り組みが、デジタルツインの先行的な活用事例になることを期待する。
帰宅困難者対策オペレーションシステムや、気候変動を踏まえた大規模風水害関連の情報発信、そして、デジタルツインを活用した水害シミュレーションといった、防災分野におけるDXの取組についてとりあげてきたが、
Q5 この分野での施策が具体化してきたことは評価できることであり、こうした総務局の取組に大いに期待するところであるが、今後の防災DXの更なる推進に向けた局長の意気込みは
A5 (総務局長答弁)気候変動の影響により、毎年のように発生する大規模風水害など、激甚化・頻発化する自然災害から、都民の生命と財産を守っていくためには、先端のデジタル技術を活用することにより、正確な情報を迅速に収集・分析し、的確なオペレーションにつなげていくことが重要。このため都は、新たな災害情報システムによる災害対応状況のリアルタイムでの共有や、ドローンを活用した被害状況の迅速な確認など、デジタル技術を活用した対策の強化に取り組んできた。来年度からは、帰宅困難者対策や大規模水害対策においても、DX化を進めていく。危機管理を所管する総務局が、防災分野におけるデジタルトランスフォーメーションを先導し、自然災害への効果的な対策を一層推進することにより、都民の安全・安心の確保に全力で取り組んでいく。
DXによる社会課題の解決は、官民で手を携えながら進めていくべきものであるが、防災対策は民間企業ではなかなか手を出しづらく、まさに都が先頭に立って取り組んでいくべきものである。また、DX、中でもデジタルツインの先行的なユースケース、活用事例を総務局が防災分野で創出することで、都政のDX、都市のDX推進の原動力の一つとなることを期待している。
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