「令和6年 事務事業質疑」産業労働局②~都の競争力向上につながる中小企業支援

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中小企業振興について

「東京都中小企業振興ビジョン」の達成状況と今後の対応

 都は、平成31年1月に策定した「東京都中小企業振興ビジョン」において、「目標値を設定することで、民間企業も頑張れる」という中小企業の経営者等の意見も踏まえて、10年後の目標値を設定しています。

 私は、当時から、本ビジョンで示された内容に戦略がないことが不満であり、令和2年の事務事業質疑では、都内中小企業の競争力と持続性を高めるにあたり生産性の改善が大切であると述べ、製造業のデジタル化により生産性をあげるドイツの国策「インダストリー4.0」についても紹介するなどしました。

 昨年、日本の名目GDPがドイツに抜かれ、4位に後退したことは衝撃的でしたが、報道等でも、ドイツ経済の強さの理由の一つとして、国策としてインダストリー4.0をかかげ、官民をあげて製造現場のDXを取り組んだことが紹介されています。

 このように、都内の中小企業の競争力を高めるには生産性の改善が大切であると考えますが、先に述べた「中小企業振興ビジョン」では数値目標を提示しているので、ビジョンの目標に照らして、どの程度、進んでいるかを、まずは確認しました。

Q ビジョンの計画期間の半分が経過する中、数値目標のうち企業経営の状況に関する指標の達成状況を伺う。

(商工部長答弁案)
〇 「東京都中小企業振興ビジョン」では、中小企業の「目指すべき姿」を実現するための施策全体の評価や検証を行うため、平成31年から概ね10年程度の期間に達成すべき数値目標を掲げている。
〇 企業経営の状況については、「都内の黒字企業の割合」の目標を50%超 としており、策定時の32.0%から、直近の令和4年度の実績は35.7%である。
〇 また、「業績が成長している都内中小企業の割合」は、目標を55%以上としており、策定時の45.5%から、直近の令和5年度の実績は50.8%である

 「都内の黒字企業の割合」も「業績が成長している都内中小企業の割合」も、ビジョン策定時と比べ上昇しているものの、コロナ禍などもあり、現時点では、目標に対して停滞していることが分かりました。ビジョンで掲げる目標の達成に向けて、中小企業振興策の精度を高める必要があります。

 国では、中小企業庁において、事業分野別、事業規模別に生産性の状況を調査したうえで、事業設計しています。

Q 今後の中小企業支援について、生産性の観点からその精度を高めるため、例えば、先に述べた調査を参考に企業規模別、業種別に労働生産性に望ましい生産性を定め、現状未達成、または今後改善が見込めない事業者について、デジタル化等による生産性向上か、М&Aのいずれかを促すなど、課題のある事業者を中心に生産性を確実に底上げし、さらには、従業員の待遇改善、さらには賃上げにつなげる取組みが必要ではないか。見解を伺う。

(商工部長答弁案)
〇 都は、中小企業が生産性を高め、市場における競争力を強化するため、デジタルの活用やM&Aによる企業の成長を支援している。
〇 具体的には、DXの実務に詳しい専門家が中小企業を巡回し、生産性を含めた事業活動における課題を洗い出し、その課題解決に資するDXの提案から実行後のフォローアップまでを一貫してサポートしている。加えて、提案の実現に必要な機器等を導入する際に助成も行っている。
〇 また、ポータルサイトやセミナーにおいて、M&Aの活用に向けた周知を図るとともに、企業価値の分析や、売買契約の締結に向けた助言など、専任のアドバイザーによる支援を行っている。
〇 これらにより、中小企業の更なる成長や発展を後押ししていく。

 国内中小企業とお付き合いのあるベンチャー企業からは、「中国はじめ他国に比べ、現状の国内中小企業では、新規製品の生産立ち上げの速さや生産力に限界があり、類似の事業内容の零細事業者が多数あるなか、M&Aなどをもっと進めてほしい」との声も届いています。

 事業規模と生産性については相関があることは明らかです。

 事業承継については、知事は三期目の公約において、中小企業における事業承継をより一層進めるため、「TOKYO白馬の騎士ファンド」を創設するとし、第三回定例会の私たちの代表質問に対して、企業の思いをつなぐ候補者を養成し、中小企業と結びつけて、経営者や従業員と信頼を築いた後継者に資金を提供するとともに、経営もサポートするとの答弁を得ています。

 事務事業概要にあるように、様々な角度から中小企業を支援していることは承知するものですが、いずれの事業も、都民の税金を使って行っています。今回は、その精度を高める必要性と、その方法の一つとして、改めて生産性の観点から議論をしました。

 今後、中小企業振興策を検討するにあたっては、都内事業者の競争力向上、さらには都市の競争力向上、さらには都民に還元されることを念頭に、制度設計を工夫することを要望しました。

DX導入による生産性向上

 都の中小企業振興策を、確実に都の競争力向上につなげる方策のひとつとして、私は令和2年の事務事業質疑以降、都の事業を使って生産性向上のための設備投資を行った場合に、それを従業員の待遇改善につなげる重要性を訴えてきました。

 これを受け都は、令和4年度より「デジタル技術を活用した支援事業」について、賃金引上げ計画を策定した事業者の補助率を高める枠組みを創設し、昨年度は「躍進的な事業推進のための設備投資支援事業」に取り組みを拡大しています。

Q 昨年度、これに手を挙げた事業者の割合は、それぞれ4割と1割程度と聞いているが今年度の申請状況について伺う。

(商工部長答弁案)
〇 都は、中小企業が生産性向上に役立つデジタル機器や競争力を強化する最新設備等を導入する際の支援について、その成果を賃上げにつなげる計画を策定した場合に、助成率を引き上げる支援の充実を図っている。
〇 今年度はDX推進支援事業について、9月末現在で、5割を超える事業者が賃上げ計画を策定している。
〇 また、設備投資支援事業では、約4割の事業者が、同様に計画を策定している。

 生産性向上に取り組むとともに、さらにそれを従業員の待遇改善につなげようとする事業者は、事業継続性すなわち雇用の面で責任感があり、成長性や競争力の面でも期待が持てると考えます。「デジタルツール導入促進支援事業」など、生産性向上に関わる他事業にも同枠を設定することを提案しました。

中小企業のIT人材の育成

 中小企業からは、IT人材を育てたいが、業務から離れて教育を受ける時間の確保が難しいとの声をいただいてきました。その点で、次の事業は重要です。

Q スタートアップを活用したリスキリングによる中小企業デジタル化支援の実績について伺う。

(商工部長答弁案)
〇 都は、先進的なアイデアや技術を強みとするスタートアップのノウハウを活用して中小企業のDXを後押しするため、デジタル人材の育成をサポートしている。
〇 具体的には、リスキリングに知見のあるスタートアップが、人材育成に関する講座を中小企業に提供し、1社あたり100万円を上限に従業員が受講できる仕組みとしている。
〇 今年度は、9社のスタートアップが、業務プロセスの自動化に役立つAIの知識や、企業のマーケティングに活用できるデータ分析の手法など、26の講座を提供し、150社延べ577名が自社の課題に応じた講座を受講している。

 オンラインで学習できることもあり、150社という枠が早々に埋まるなど、多くの事業者に手を挙げていただいていることがわかりました。現場の声を踏まえた取組みであることを評価するとともに、引き続きの取り組みを求めました。

 ここまで、生産性向上とデジタル化について議論してきましたが、一方で、労働生産性の算出においては、その分母を「労働投入量」(従業員数×労働時間)、簡便には「従業員数」を用いることから、設備投資では生産性が上がりにくい労働集約型の業種や、家族経営の零細企業などに対する支援については、別に議論する必要があることを申し添えました。

地方との共存共栄に向けた「出展支援」の拡充

 小池都政も3期目を迎えるなか、産業交流展全国連携を踏まえた展示・商談会開催事業地域連携型商談機会創出事業など、地方との共存共栄策は重要です。

Q それぞれの事業の取組状況を伺う。

(商工部長答弁案)
〇 今月開催される産業交流展における全国からの出展ゾーンにおいては、日本各地の中小企業等の優れた製品やサービスを展示する予定であり、92者の出展が計画されている。
〇 また、12月に開催する、全国の中小企業を対象に都内での販路開拓等を目的に実施する展示・商談会においては、これまでに306者の出展が予定されている。
〇 さらに、他県で開催される商談会等の場を活用し、大手バイヤーや都内の中小企業等を他県の企業とマッチングする事業では、9月末現在で、全国3か所で、合計744件の商談を行っている。
〇 これらの取組が契機となり、都内の食品製造事業者が他県の食品メーカーと連携して新たな商品を開発した事例などが出ている。

 他道府県の事業者にとっては、東京都という大消費地にアクセスできる貴重な機会だと思います。今年度は全国4か所で商談を実施する予定とのことですが、さらなる拡大をお願いしました。

当事者が求める「創業支援」

 私は、都民ファーストの政治の実現に向けて、半年に一度のペースで都政課題をテーマに、専門家を招き、参加者と意見交換するスタイルの都政報告会を開催してきました。今年4月に開催した13回目の都政報告会のテーマは「スタートアップ」であり、その後継続して関係者の皆様よりご意見をいただいています。

 参加者の皆様との議論のなかで多かったお声が、(1)学生に向けたアントレプレナーシップ教育の拡充と、(2)創業して間もない企業に創業経験がある人が参画し、経営のサポートに入ってほしいというものでした。

 現場では、起業経験のある人が、後輩が立ち上げたベンチャー企業に数年間就職し、創業を支援するなどが行われていますが、あくまでも人間関係の中であることから、広くマッチングすればより良い組み合わせがある可能性もあります。また、創業間もない事業者には、経験者を雇用する人件費が負担になるケースが多いそうです。

 一方で、同様の機能として、IPOコンサルやVCによる支援が考えられますが、日本においては上場が目的化し、創業者の想いと合致しない場合も少なくないと聞いています。

Q 創業間もない起業家に対し、起業経験者によるフォローが必要と考えるが、取組を伺う。

(商工部長答弁案)
〇 事業を立ち上げた直後のスタートアップにとって、新たな事業の展開にあたり、起業経験者の助言は有効であり、都においても、スタートアップ支援において、こうした経験者を活用している。
〇 具体的には、優れたアイデアなどを有する創業間もない起業家の事業化をサポートする育成プログラムにおいて、起業経験者18名を含む各分野の専門家100名を超える支援者が、メンターとして登録されており、事業計画の磨き上げなどを継続的にサポートしている。
〇 今年度は、9月末現在で、12社のスタートアップに対し、資金調達やビジネスモデルなどに関する相談に応じている。

 起業経験者などをはじめとした支援者が、起業家に直接実践的な助言を行うことにより、起業家の成長を促すとともにその内容を把握することで、ベンチャーの実態を踏まえた支援策のアップデートも可能となります。こうしたフォローを行いながら、得られたフィードバックを都の施策に活かすことを要望しました。

 加えて、学生スタートアップとの意見交換では、泊まり込みの開発を希望する声が多く、近畿大学では24時間利用可能な施設を整備していることなど紹介を受けました。事務事業質疑に先立つ意見交換で「青山スタートアップアクセラレーションセンター」を知り、これを紹介したところです。産業労働局が取り組んできたスタートアップ振興策が必要とする人に届くよう、TIBとも連携した広報を求めました。

 また、都のスタートアップ関連施策を利用した方からは、創業者や投資家に比べて、都が派遣した専門家の熱意が低い、との意見も届いています。実はこのような意見は創業支援に限りません。

 都の事業自体についてアンケートで満足度を聞くといった取組みはなされていると聞きますがが、税金が入ることで、利用者にとっては提供されるサービスに比べてコストが低くなることから、どうしても不満の声は出にくいと考えます。受託した事業者が事業の意図を理解して、スタートアップ振興策であれば、スタートアップのために働いてくれたかなど、今後は、受託事業者そのものの評価を行うような枠組みの検討を求めました。

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