「首都直下地震等による東京の被害想定報告書」について
都が、東日本大震災を踏まえて策定した被害想定を10年ぶりに見直した「首都直下地震等による東京の被害想定報告書」に目を通しましたが、地元世田谷区で焼失棟数が多いことに、あらためて衝撃を受けました。
マンションについては、住民のお声をうけ、継続して情報提供の充実を働きかけ、平成30年の第二回定例会総務委員会で、「東京防災」、そして「東京くらし防災」に、マンション住民に対する防災情報が少ないこと、なかでも、「東京防災」全324ページのうち、「マンションの防災対策」というページが1ページだけしかないことを指摘し、充実を求めました。この結果、令和2年度予算で「マンション防災のコンテンツ追加」が予算化され、「マンション防災」の内容が充実されました。しかしながら、まだ十分知られているとはいえません。
今回のシナリオで衝撃的だったのは、断水と火災が重なった場合のリスクの高さです。平成29年に、イギリスで起きたグレンフェル・タワー火災では、鎮火に24時間以上を要し、英国内では第二次世界大戦後最悪の死者数70人を出しました。英国では2006年以前からある建物にスプリンクラーの設置が義務付けられていなかったり、防火扉がない、外壁が燃えやすい材質だった、など複数の原因が指摘されていて、当時は日本では起こりえないという認識でいましたが、当たり前だが、断水したらスプリンクラーは動きません。
私は、この新たな被害想定を、東京の防災力の向上に繋げることが重要だと思います。特に、都民一人ひとりの事前の備えと、地震発生時に自ら考え行動できる、自助の取組を促進するためには、我が事と感じてもらうことが大切であり、そのためには、住民一人ひとりの地域や住まいの特性に応じて、発災時の状況をリアルに伝えることが効果的であると考えます。
Qそこで、今回の被害想定における発災後の被害様相を、可視化して、都民に分かりやすく伝えるべきと考えるが、見解を伺う。
A 都民の防災意識の向上を図るためには、今回の被害想定結果を都民に分かりやすく発信することが重要。このため、今回、電気などのライフラインや、道路などの都市インフラの被害の状況や都民等への影響について、発災直後からのタイムラインに沿って明らかにした。今後は、地域ごとの建物の倒壊や焼失などの被災リスクを視覚的に確認できるデジタルマップを作成。また、都民が発災時の状況を「我が事」として捉え、災害への備えにつなげられるよう世帯構成や居住環境等に応じた、発災後のリスクを分かりやすく伝えていく。
デジタルマップについては、Googleのランキング要因に、主要なコンテンツが表示されるまでの時間があります。これが2.5秒以上だと改善が望ましい、とされます。都の、データを基にして描画する類のサイトは描画に時間がかかるものが多いことから、都のHPで都民向けに公開する際には、高速描画の方法も検討いただくことを要望しました。
「首都直下地震等による東京の被害想定報告書」を読んで気づいた点と要望
また、「首都直下地震等による東京の被害想定報告書」を読んで気づいたことを、具体的に提案しました。
・エレベータ閉じ込めが同時多発的に発生することは間違いない。飲料水やトイレ、救急用品等が入った、防災キャビネットの設置も進んでいるが、管理会社に依頼して、マンション住民による閉じ込め救助訓練を行っている例もある。効果的な取り組みだと思うので、調査の上、周知を望む。
・車が施錠されたまま放置されることで、渋滞の助長や緊急通行車両の活動の妨げになるという記載があるが、道路交通法に基づき作成している教則では、車のドアをロックしないことを求めている。改めて周知が必要。
・主要な情報収集手段であるモバイル端末のための通信環境確保において、交換機等が設置されている通信ビルが重要であることが改めてわかった。都として、災害対策の強化と、少なくとも1週間の燃料確保の方策を講じるべき。
・災害用伝言ダイヤル(171)、災害用伝言板(web171)の容量に限度があり、利用が殺到すると活用できない可能性があることが判明。被災の程度に応じて記録できる量を制限するなど、周知するなら対策もうつべき。
・食料等の避難所の備蓄の枯渇対策としては、台湾のマスクではないが、物資を受け取る際にマイナンバーカードを利用するなどの取り組みも必要かも。
一斉帰宅抑制と、コミュニティの重要性に関する要望
また、一斉帰宅抑制と、コミュニティの重要性については、私は周知徹底を繰り返し求めてきました。今回のシミュレーションでは、一斉帰宅抑制が発動しなかった場合の帰宅困難者の割合について、
帰宅距離 ~10km 帰宅困難割合 0%(全員帰宅可能)
帰宅距離 10~20km 帰宅困難割合 1km 長くなるとともに、帰宅困難者割合が1割増
帰宅距離 20km~ 帰宅困難割合 100%(全員帰宅困難)
としています。
また、要配慮者については、全死者に占める割合が6割を超えるとの結果になっており、これを抑えるには周囲の支援、つまりコミュニティが機能していることが不可欠だと考えます。今回、答弁にあった、「世帯構成や居住環境に合わせて情報発信」する際には、被害を抑える方法として「一斉帰宅抑制の徹底」と「地域コミュニティの強化」という、一人ひとりができる取り組みがあること、そして何をすればいいのかを、合わせて通知することを求めました。さらには、10年後になるかもしれない、次回の被害想定の見積もりの際には、シミュレーションの際に「一斉帰宅抑制の徹底」と「地域コミュニティの強化」を変数として入れることを求めました。それによって、一斉帰宅抑制への協力状況、地域コミュニティの形成状況に応じた、想定される被害量を出すことができて、目標値も設定できるし、努力するきっかけにもなるなど、目標値が明らかになると考えます。
常緑広葉樹種の植林による防火効果
そして、最後に都市の防災力向上に向けて、1点、提案しました。
常緑広葉樹種の植林には、防火効果があると言われています。大正12年の関東大震災では、発生時間が昼食時だったことから、同時多発的に火災が発生、3日間燃え続けたそうです。この時の死因の大半は火災であって、倒壊した家屋を燃やしながら燃え広がり、人々は、空き地、公園、大学、規模の大きな個人の住宅等へと避難しました。ところが、逃げ込んだ場所の空間的・植物的条件の違いで生死を分けたのだそうです。内部に多くの樹木が生育していた岩崎邸(現、清澄庭園)では、樹木が防火効果を発揮し、そこに避難した約二万人もの人が無事に助かったのに対し、樹木がなく、広い空き地であった陸軍被服廠跡(りくぐんひふくほんしょう)では、着火飛来物の落下、折から周囲で発生した熱旋風に煽られて、約38,000人もの人が焼死、男女の区別さえもできないほどひどい状態であったそうです。
昨年7月にご逝去された、横浜国立大学名誉教授であった、故 宮脇昭先生は、日本の土地由来の、常緑広葉樹種(じょうりょくこうようじゅしゅ)を幹線道路に植林すること、そして、避難所の周囲に植林することが、逃げ道と逃げ場所の確保になると活動を続けてこられた。有効な手段であることをお伝えします。
一斉帰宅抑制について
発災時、一番に気になるのは、離れた場所にいる家族の安否です。帰宅困難者の家族の安否確認をより確実にすることが、一斉帰宅抑制の徹底につながると考えます。そして、家族が暮らす地域に、自分の代わりに家族の状況を見てもらうことができれば、さらに安心です。そのためには、
Q 日頃から地域の自主防災組織等に、安否確認の必要性や方法の周知に協力していただくことが重要だと考えるが、見解を伺う。
A東日本大震災では、徒歩で帰宅した人が必要と感じた情報として「家族の安否情報」が最も多く挙げられている。平素から家族の安否確認方法を確立しておくことが必要。これまで都は、安否確認ハンドブックや防災アプリなどで、安否確認方法や事前の登録について広く周知。今後、町会・自治会のリーダー向けの研修を活用し、自主防災組織内で安否確認の方法や事前登録の必要性を周知していただけるよう取り組んでいく。さらに、個人向けの講座でも、同様に周知。これらの取組により、自主防災組織等の協力を促す。
自主防災組織は、町会や自治会を中心として組織されているケースが大半です。ここに、安否確認の方法や、事前登録の必要性を周知していただくことは効果的と考えます。
そして、町会や自治会に加入していない人に、どう加入してもらうか、は、長年の課題です。町会・自治会の掲示板への掲出はもちろんだが、区内の桜上水2丁目町会では、スタンドパイプを使った訓練を定期的に実施しているところがあります。このような取り組みを土日にやってもらい、通りがかりの人が目にする場所で、自主防災組織を中心に安否確認がなされること、事前登録が必要なことを知らせるなど、目にとまる方法を検討いただくことを要望しました。
事業所防災リーダー制度について
発災時の一斉帰宅抑制の取組を進めるためには、企業等における防災への協力も重要になります。この3月には、従業員の安全確保や一斉帰宅抑制など、企業等において都との窓口となり、事業所内で防災対策を推進してもらうための事業所防災リーダー制度が創設され、私からも、町会の加入率が低迷し、なかでも現役世代の加入が進まないなか、「事業所防災リーダー」を通じた働きかけは期待できると伝えてきました。
事業所防災リーダーとは
・事業所内の災害対策の旗振り役となり、従業員の安全を確保等してもらうために、登録してもらう
・登録してもらうことで、企業等が都と直接繋がり、大規模地震発生時における一斉帰宅抑制や大型台風接近時の出勤抑制など、発災時に必要な情報を速やかに得られるようになる
・都は平時、防災活動に役立つ情報を毎週メール配信することで、各事業所における備蓄やオフィス用品の転倒防止策など、企業の防災対策の推進をサポートする
・防災リーダーに登録することによる企業の義務は特になく、リーダーは管理職等である必要もない。また、一つの事業所内に複数人配置することも可能
・都のホームページやツイッターで広報するとともに、東京商工会議所と連携し会員企業に対するメールマガジン等を通じて当該制度について広く周知してきた
・大規模ライフライン事業者や公共交通機関などの指定公共機関や民間一時滞在施設等に対しては、直接訪問や電話、メール等により登録を促進してきた
・事業所防災リーダーの登録数は、6月8日現在で303社、486人
Q 登録数については、まだまだこれからです。登録に向けた課題があるのであれば、それはどのようなものか。課題解消にどのように取り組んでいくのか、伺う。
A 登録に当たり、企業からは、「特別な負担が生じるのではないか」「登録によるメリットが分からない」などの声が寄せられており、防災リーダー制度の理解が進んでいないことが課題の一つ。このため、今後、企業の不安を払拭し、防災リーダーに登録してもらえるよう積極的な周知を行っていく。具体的には、本制度の意義やメリットを分かりやすく示したリーフレットを作成したうえで、経済団体とも連携し周知を図っていく。また、個別に企業を訪問するなど、丁寧な説明を行っていく。こうした取組により、防災リーダーの拡充に努めていく。
私は、民間の研究所で研究開発を担ってきました。事業所で消防車を所有し、周辺の住宅地に燃え広がらせない責務を負っていました。つまり、企業には既に防災のための体制があります。このような中、防災リーダーの位置づけがあいまいになることを懸念しています。防災リーダーに興味を持ち加入してくれた人には、所属企業の防災組織に入る、もしくは、防災組織のひとにも加入を促す、などが、企業内防災体制との共存として望ましいように思う、と伝えました。
いずれにしろ、事業所防災リーダーは、平時は企業内で災害に対する備えを行い、発災時には従業員の一斉帰宅抑制の呼びかけを行うなど、東京の防災力向上に寄与するものであることから、今後も当該制度の登録促進を要望しました。
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