子供政策連携室の予算案について質疑を行いました。
子供政策連携室
「子ども未来アクション」
P54に、「エビデンスに基づく子供政策の推進」とあります。分析し、課題やニーズを明らかにし、各局と連携して政策を練り上げ、機動的に展開、とあるが、効果検証も重要です。
私はかねてより、EBPM(Evidence Based Policy Making)の重要性を訴えてきました。EBPMは医療分野から始まりました。薬の効果を調べたくても、患者ごとに年齢や性別、基礎疾患などの条件が異なるため、単純な比較ができません。そこで、薬を飲ませた集団とプラセボ(偽薬)を飲ませる集団を、それぞれ構成する人数を十分大きくすることで、年齢や性別、基礎疾患などを持つ人がそれぞれに含まれ、結果的に集団の違いを薬かプラセボかだけにすることで、比較ができるようにします。
2つのグループの結果は患者の持つ条件により分散をもちますが、その分散に対して、集団の平均の差が十分大きいかどうか、有為かどうかで検証します。このように、複数の要因が絡む事柄について政策効果を検証するのに、統計的手法が不可欠です。数字を使えばいいというわけではありません。
医療分野の次に、EBPMが使われたのが教育分野です。知識習得がテスト等で測りやすかったこと、学校という現場でデータを集めやすかったこともありますが、施策の効果を確認するために、俯瞰的、長期的にみる必要があるからともいえます。
Q1 「こども未来アクション」では「エビデンスに基づいた子供政策の推進」を掲げているが、経験則や推論に基づいた施策の立案・実行ではなく、エビデンス重視、DXの推進、データの活用を中心に据えて、子供政策を展開していくべきと考えるが、都の見解を伺う。
A1(子供政策調整担当部長)エビデンスに基づいて、子供の実情や抱える課題を的確に把握し、子供に寄り添った実効性のある政策を練り上げていくことは、子供政策の基本。(略)こうした観点から、「こども未来アクション」には、定点調査や、子供の事故情報に係るデータベースの構築、区市町村におけるデータを活用したサービスの質の向上の取組など、エビデンスに基づいた政策展開を盛り込んだところ。これらの取組を通じて、実効性のある子供政策を機動的に展開。
子供や子育て世帯を取り巻く課題は、多分野にわたり複雑化・複合化しているからこそ、デジタルを活用し、データを集め、PDCAにより、政策をバージョンアップするとの答弁でした。議員提案により東京都こども基本条例が制定され、子ども政策連携室が発足し、ヤングケアラーしかり、日本語を母語としない子どもしかり、CDR(チャイルドレスレビュー)しかり、重要なテーマを扱っているからこそ、データを活用し、政策の精度を高めていただくことを要望しました。
「子供に関する定点調査」
実効性の高い子供政策を推進するために、「福祉、教育など、従来の行政分野の枠組みにとらわれることなく、子どもに関する実態や意識の変化を把握するため、新たに定点調査を実施」との記載があります。前回定例会で補正予算を議決しましたが、その時にも求めたように、「子供に関する定点調査」については、他の調査等と比較できる内容にするべきと考えます。
Q2 「子供に関する定点調査」に関して、現在までの進捗状況を伺う。
A2(事業調整担当部長)子供に関する定点調査の実施に向けては、1月下旬に学識経験者等と当室職員によって構成する検討会議を設置し、これまで計2回の会議を開催。会議の中で、学識経験者等の委員からは、諸外国の子供と比較することで、東京ないし日本の子供特有の課題であるかどうかを検証できるよう、国際比較可能な準備をするべき、などの意見をいただいている。
こうした意見を踏まえ、子供に関する国の調査や国際的な調査等を参考にしながら、現在、来年度早期の調査実施に向け具体的な調査項目を検討。調査を通じて得られる子供や子育て家庭の意識と実態にかかる長期的なデータは、今後、都が子供の目線に立って取り組む施策の推進と改善の指針としていく。
諸外国の子ども施策も、その効果が数字で表されているからこそ、引用できます。都が取り組む子供政策も、客観的データを添えて効果を説明できるようにすることを求めました。
同じく、P54に、先行事例調査として、国内外の先進事例調査をしたとの記載があります。具体的には、「イギリス、オランダ、オーストリア、檜原(ひのはら)村」を令和4年度に視察したと聞いています。
Q3 海外視察の成果及び施策への反映について伺う。
A3(子供政策調整担当部長)今年度、子供政策連携室ではイギリス、オランダ、オーストラリアの3か国に海外視察を行ったところであるが、例えば、ヤングケアラー対策の先進国のイギリスでは、ヤングケアラー研究の第一人者である、ソール・ベッカー教授の協力のもと、マンチェスター市内の高校や市役所等を訪問し、ヤングケアラーの当事者と交流を図り、学校や支援団体による、社会参加・体験型の自立支援プログラムについて意見交換。また、ヤングケアラーがワークショップに参加しメディアレポートを制作する取組や、ヤングケアラー自身の言葉を音楽に乗せたミュージックビデオを制作する取組などについてヒアリング。こうしたイギリスの先進事例を踏まえ、都では来年度、ヤングケアラー当事者の前向きなメッセージ等を発信する普及啓発に取り組んでいく
先進事例に学ぶことは大切です。しかしながら、「ヤングケアラーではない子供達がどうなのか」も重要であることを指摘しました。その理由として以下について紹介しました。
コロナ禍で私が経験したこと(子ども発か、保護者発か)
日本の保護者の皆様からは、(受験を控える)我が子が通常の授業が受けられるように早期のオンライン授業を望む声を大変多くいただきました。一方、ASJ(アメリカンスクールインジャパン)の保護者様からは、「子どもが学校にある3Dプリンタを使って、医療現場で不足しているフェイスシールドを作り提供したいというので、区内の医師会につないでほしい」というご相談を受けたのです(玉川医師会につないだ様子は報告しています)。
非常時において、「従来通りの教育を受けたい」という日本の「保護者からの」声と、緊急事態にいて「社会を支える側になりたい」という「子どもからの」声で動いた保護者様からの声。ここに大きな違いを感じました。
小学校から大学、社会人になるにつれて、教育やサービスを受ける側から、社会に提供する側に、連続的に移行していく必要があります。私が都議会で何度もとりあげている、日本財団の18歳の意識調査では、日本の若者が突出して、自国の社会課題を解決する意欲が低いことが明らかになっています。これを踏まえると、英国では、ヤングケアラー以外の子供達も自ら発信するなかで、ヤングケアラーも同じように発信している可能性があるのではないでしょうか。海外視察を参考にする場合は、母集団の違いも、把握しておくべきと要望しました。
ハイリスクの子供の探索に向けたデータ利活用
また、ヤングケアラーなどのハイリスクの子供に「確実に」気づくために、教育と福祉のデータの掛け合わせが有効であるという先進事例を踏まえ、デジタル庁は令和4年度から先進自治体の支援に乗り出しています。
私は、「令和4年第2回都議会定例会」の一般質問で、この事例を紹介するとともに、都でも取り組むべきと訴え、知事からは、「同様の取組を都内で進めるため、都としても先進事例を調査し、先駆的・分野横断的な区市町村の取組について後押しをしていく」との答弁を得ています。
Q4 ハイリスクの子供の探索に向けたデータ利活用に関する今年度の進捗について伺うとともに、これを受けて令和5年度の取組を強化するべきと考えるが、見解を伺う。
A4(事業調整担当部長)今年度、様々な困難を抱えた子供に関する教育や福祉のデータ連携について、都内全区市町村の取組や検討状況の実態を調査。区市町村の課題として、個人情報保護や住民の理解、困難を抱えた子供への対応を含む予算や人員の確保、紙媒体資料のデータ化を始めとする技術的な障害等、複合的な要素があることが判明。
今後、データ連携に関する先進事例の紹介、区市町村包括補助事業の活用による複数年度にわたる財政支援等を通じて、区市町村の取組の拡がりを後押し
課題の一つとして、「困難を抱えた子供への対応を含む予算や人員の確保」がありました。本取り組みによって、ハイリスクの子がより多く見つかると、今でも手一杯なのに、体制が組めない、というお声もあったと伺っています。
「ヤングケアラー」は、今まで見えていなかったリスクに名前がついて、世の中に認知されるに至りました。学び、育つ時期の若者が自らのために時間を使えないことが長期的に続くことは、将来に大きく影を落とします。引き続き、区市町村への働きかけを継続し、早めに見つけることで状態の悪化を防ぐこと、予防にシフトいただけるよう、要望しました。
「異年齢」との関わり
乳幼児期の子育ちや、子どもの遊びの推進で、「異年齢」との関わりが記載されたことを、高く評価します。
実は、国内にも、異年齢の教育がありました。薩摩藩に伝わる郷中教育(ごじゅうきょういく)です。私はこの存在を、鹿児島と県境にある宮崎県都城市(みやこのじょうし)出身の、先日76歳を迎えた先輩から教えてもらいました。
郷中は、今の中学生ぐらいまでの『稚児』(ちご)』と、高校~大学生ぐらいの、『二才』(にせ)に分けて、勉学や武芸、山坂達者(やまさかたっしゃ、今でいう体育・スポーツ)などで、もともとは、先輩が後輩を指導することで、強い武士を育てるためのものだそうですが、今でも、①負けるな、②嘘をつくな、③弱い者をいじめるな、という教えは続いているそうです。
都議会議員になってお祭りに関わるなかで、小さいうちから参加しているような子は多くの大人に声をかけられ、多様な年齢、そして価値観と触れて本当に豊かな育ち方をしていると感じます。
我が会派が開催した、プレーパークに関する公開型勉強会でお招きした、NPO法人プレーパーク世田谷の理事である天野様からも、「小さい子と年長の子が一緒に遊ぶと、小さい子は目をキラキラさせて喜び、必ず、年長になったときに、小さい子の世話をするような子に育つ」という話がありました。
異年齢で関わることや、タテヨコナナメの関係は本当に大切だと考えますが、プレーパークの発祥の地であり、区内に4つもある世田谷でさえ、多くの子供達は小学校の早い子は低学年から塾に通いだすのが実情です。異年齢の関わりがあれば、誰もが小さい子のヒーロー、ヒロインになれるのに、机に向かって同学年が一斉に並んで受け身の授業を受けるスタイルの教育では、他者との関わりを学ぶ機会が少なく、成績という一つの物差しだけでは、勝者は一握りしかいません。私は、このような育ち方が、日本の子供達の自己肯定感の低さにつながっていると考えています。
成績や偏差値のように、数値化・定量化されているものは強く、異年齢で関わることや、タテヨコナナメの関係は、その成果が定量化されていないために、子ども達の時間から優先順位が低いとされ、取り除かれてきました。
Q5 知識習得以外のいわゆる非認知能力の伸長をどう評価するのか、伺う。
A5(子供政策調整担当部長) 非認知能力の育成への評価に関しては、国際的にも注目されている。例えば、幼児教育とその後の成長等への影響に関する調査として有名なアメリカの「ペリー就学前計画」では、幼児教育の提供の有無により、その後の学力や収入などに有意な差があることが示されている。また、OECDでは、「乳幼児期が将来のスキル発達の基礎を築く重要な時期である」との認識を示した
お話の評価については、東京大学の発達保育実践政策学センター(通称Cedep)とも意見交換を行っているところであるが、乳幼児期にこうした能力の醸成を図り、発現されるまでには一定程度の期間を要することから、国際的な研究や知見も活かしながら、多角的に検討
「ペリーの就学前計画」は、「就学前に教育を受けると、成人した後の雇用や経済状況が安定し、生涯に渡って所得の向上が見られ、犯罪率も低くなる」というものですが、「日本の幼児期は、既にこの実験でいう教育を受けた状態にある」という見解もあります。母集団には気を付ける必要があります。
ご答弁は、幼児期についてのものでしたが、小学校低学年から中学年にかけての「ギャングエイジ」(子ども同士で集団を作って、活動範囲も広がり、秘密基地などつくって、家族からの自立が見られる時期であり、社会性を育む重要な時期であるとされる)も主体性や協働性と大きく関わると考えられることから、あわせて検討を要望しました。
専業主婦家庭向けの定期保育サービス
私は、令和4年第3回定例会の総務委員会で、「子育て支援に関わる団体から、専業主婦家庭が共働き家庭に比べて孤独と孤立に陥りやすいこと、結果的に虐待リスクが高まる傾向があること、未就園児を持つ家庭の過半数が定期保育サービスの利用を希望していること」を紹介し、「乳幼児が他者と広く関わる機会を創出する」よう求め、山本子供政策調整担当部長からは、「親の就労等の有無にかかわらず多様な他者と関わり合うことができる新たな仕組みの創出と政策の方向性を示し、引き続き、全ての乳幼児の伸びる、育つをサポートする取組に果敢にチャレンジする。」との答弁を得ました。
これに対して、私は、「専業主婦家庭が希望する定期保育サービスは、通常の定期保育サービスより低頻度、短時間であり、保育園の空き定員を活用した未就園児、無園児の定期預かりについて検討することを要望」しました。
来年度予算で、専業主婦家庭の保育を計上したことを高く評価します。関係者の期待は高いものがあります。
Q6 専業主婦家庭の孤立との関係について伺う。
A6(子供政策調整担当部長)福祉保健局において来年度から実施する「多様な他者との関わり創出事業」では、保護者の就労の有無にかかわらず、ゼロ歳児から2歳児の子供を中心に定期的な預かりを実施。昨年実施した有識者からのヒアリングでは、子育ての孤立化といった保護者の心理的不安は、子供の育ちにマイナスの影響を与えるとの提言をいただいたところ。
本事業は、多様な他者との関わりによる乳幼児の非認知能力の醸成に加えて、在宅子育て家庭の孤立防止を通じた育児不安の解消にも寄与するものであると認識。
子どもを預かることによって、保護者との接点ができます。切れ目のないサポートの一環として、保護者の様子も見ていただき、気になる場合には、早期に保健センターや子ども家庭支援センター、そしてソーシャルワーカーなど社会資源に引き継いでいただくよう要望しました。
また、子ども家庭福祉分野に専門性を持つ新たな資格である「こども家庭ソーシャルワーカー」について、2024年4月の制度化を目指し厚生労働省で検討が進められていると聞きます。都としても育成を推進するよう要望しました。
プレーパークの設置支援
我が会派の要望を受け、都は来年度予算に、プレーパークを設置するための予算を計上しました。高く評価します。
私自身、地元世田谷区にあるプレーパークには、個人的にも、会派としても、これまでも何度か足を運んできました。運営上の課題として、地域住民の参画が不可欠であることに加え、子どもたちの安全を守りながら、子どもたちの遊びを発展させる役割を担う、プレーリーダーの待遇が課題であることは繰り返し伺ってきています。
Q7 プレーリーダーが活躍する環境を作っていくために、まずは、プレーリーダーの関連団体からヒアリングを行い、どのようなことに困っているのか、現場の声に耳を傾けるべきと考えるが、都の見解を伺う。
A7(子供政策調整担当部長)子供の遊びや体験の幅を広げる役割を担う、いわゆる「プレーリーダー」が、継続的・安定的に活動できる環境を創出していくことは重要。このため、来年度プレーリーダーの関連団体等へのヒアリングを行い、プレーリーダーの活動状況等を把握
先の、IQやテストなどで評価できる認知能力とできない非認知能力のように、売り上げ等で貨幣価値換算できる仕事に比べて、できない仕事は待遇が上がりにくいと感じます。例えば保育士、介護士、教師・・・いずれも人に向き合う仕事であり、プレーリーダーも似た状況にあるのではないでしょうか。
新学習指導要領で求める「主体性」や「協働性」は非認知能力です。その重要性が議論されるようになったことは良い傾向ですが、取り組みの質を高めていくためには定点調査が果たす役割は大きいと考えます。
先に述べた日本財団の調査は、日本の若者の特徴を鮮やかに示したという意味では意義深く、「子ども未来アクション」でこの調査が改善するか、定点調査でも追えるようにするよう求めました。
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